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2008年5月

図書館特集:『近代建築』4月号02

図書館特集:『近代建築』4月号02

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 前回に引き続き、『近代建築』4月号が勉強になったという話です。今回は長崎市立図書館運営統括責任者、小川俊彦氏の稿「管理者として見た望ましい図書館建築」について。小川氏は建物の大きさはどのように決めるべきか、使いやすい図書館とはどんなものか、運営する上で建設計画から気をつけるべきことはなにか、をわかりやすく語っておられますが、「使いやすい図書館」について書かれた箇所が図書館に限らず広く文化施設に当てはまる内容でしたので紹介したいと思います。

「座れる、しゃべれる、読書が楽しめるという空間が用意できれば、それも街中にあり、中で利用している人たちが見える図書館であったりすれば、そこは間違いなく集合場所になり、待ち合わせの場所になってくる。本があるところ、情報のあるところ、が図書館であるが、同じように人が集まってくるところ、が図書館でなくてはいけない。」

 これを読んだとき、私の頭をすぐさまよぎったのは金沢21世紀美術館でした。SANAAが作り出した総ガラス壁の開放的な空間は、まさに小川氏のいう図書館像と合致するものでしょう。彼はさらに、建物の外観だけでなく内部においても「開放感」が肝要と考えています。

「図書館に一歩入ったとき、館内が見渡せるというのは、利用者に安心感を与えてくれるのである。先が見えない、働いている職員も見えないでは、入ってよいものか、勝手に歩き回ってよいのか、どこに何があるのかがわからなかったなら、少し気の弱い人、子供やお年寄りなども図書館は近づきにくいものになってしまう。」

 そのため「気軽にものを尋ねられる職員を配置する必要がある」とのこと。そういえば、前回の植松氏の頁にスウェーデン、マルメ市立図書館のインフォメーション・デスクの様子を映した写真がのっていましたっけ。説明によると「職員が立って待機していることで声をかけやすく、利用者と職員が横に並んでパソコンをみられる」とあります。なるほどインフォメーション・デスクも「開かれた」形状をしていて、よくあるカウンターのように、こちら側とあちら側を隔ててはいないのが印象的です。
 少し脱線してしまいましたが、小川氏の考える「使いやすい図書館」とは要するに「親しみやすい図書館」とほぼ同義といっても差し支えなさそうです。書架の高さは1段30センチとして5段までが望ましいというのも、それなら小柄な人でも手が届き、目の悪い人でも書名が読み取れる高さということ。理にかなっています。ちなみに児童の書架は絵本なら3段、読み物なら4段とする図書館が多いそうです。
 この記事を読んで最後に気になったのは、美術館のいわゆる「美術図書室」はどうだろうかということでした。利用者にとって「親しみやすい」空間を提供できているでしょうか。

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図書館特集:『近代建築』4月号01

図書館特集:『近代建築』4月号01

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いまさらな話題ですが、近代建築社が発行する雑誌『近代建築』の4月号で図書館特集が組まれています。建築雑誌なので建物の写真がメインですが、筑波大学付属図書館長植松貞夫の「これからの図書館像とそれを実現する図書館建築」という記事が勉強になりました。

 植松氏は、図書館は現在、紙媒体とデジタルコンテンツ双方を提供する「ハイブリッド・ライブラリー」の状態にあり、その状態は今後も長く続くと予想していますが、「ハイブリッド・ライブラリー」という現状において、利用者は目的の資料・情報を探す際、印刷物には目録、デジタル・コンテンツにはメタデータ、そしてネットワーク上のものは検索エンジン、とそれぞれ使い分けなければならない不便があり、資源リンキングシステムを組み込んだ図書館ポータルの開発が急務であると主張しています。

 また植松氏は大学図書館の2大機能である教育と研究支援のうち、研究支援に関わるものは非来館型のサービスへと既に移行しており、図書館サービスの場である建築は、学部学生への教育支援を目的にすべきと捉えています。考えてみれば、私達が論文を探す際にはもっぱらウェブ上の検索サービス(GeNii等)が主流になっていますし、専門化すればするほど図書館の蔵書では対応しきれないものが多くあります。その意味で「場所」としての大学図書館における研究支援は、各学科の基礎となる重要文献を押さえる程度(すなわち教育支援)へと緩やかに移行していくのかもしれません。

もう一点なるほどと感じたのは、大学の地域社会への貢献が不可避となった今日、大学図書館は何をするべきかという点です。一つは学外者の利用を念頭においた館内サインの充実であり、もう一つは館内セキュリティへの配慮。どちらもこれまでの大学図書館が見逃してきて部分ではないでしょうか。社会に開かれた大学が求められている以上、その主要な窓口となる図書館の館内サインもしっかりとデザインし、使い勝手を高めておく必要があるのだろうと感じます。


ちなみに植松氏が館長を務める筑波大学付属図書館は、3月に大学図書館としては初めてスターバックスを導入し話題をよびました。この論考でも「カフェや作品発表の場を設けるなど特段の目的をもたなくても来館したくなるような雰囲気をもつ必要がある」と主張しておられます。

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佐藤可士和のウェブアーカイブ

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広告あるいはコミュニケーション・ツールとしてのウェブアーカイブ


 大阪芸術大学が主催するデザインフォーラムmovement2008に参加したのだが、ゲストの一人、超人気アートディレクターの佐藤可士和の講演が印象に残った。正直なところ、彼の講演内容は「アートディレクターの新領域」という多摩美術大学が公開するポッドキャストでほとんどフォローできるもので、既にそのポッドキャストを視聴している私にとってはとりわけ目新しいものではなかった。では何が印象に残ったかというと、講演時に提示された彼個人のHPのデザインとその使い方である。今回、彼はHPだけを使って話をしたが、そのHPは明快に整理されたウェブアーカイブであり、佐藤にとって極めて使いやすい広報ツールとなっているようだった。彼のあらゆる仕事が「色」を基準に超整理された状態で一般公開されているこのHPは、まさに「広告としてのアーカイブ」「コミュニケーション・ツールとしてのアーカイブ」である。そのウェブデザインはユニクロのグローバル戦略でチームを組んだ中村勇吾の手によるものだが、アートディレクションは佐藤自身だそうだ。
 おそらく佐藤はどこに講演にいってもネット環境さえあれば、自分の仕事をオーディエンスに明快に提示できる。講演のためにパワーポイントやキーノートをわざわざ準備する必要ももはやなさそうだ。これほど利便性に富んだアーカイブは見たことがない。よく出来たアーカイブはそれだけでコミュニケーション・ツールとして力を発揮するということを改めて考えさせられた。・・・それにしても『佐藤可士和の超整理術』という書籍を出しているだけあって、徹底して整理された感のあるHPであった。

佐藤可士和のHP kashiwasato.com

佐藤可士和の超整理術佐藤可士和の超整理術

著者:佐藤 可士和
販売元:日本経済新聞出版社
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プロフェッショナル 仕事の流儀 アートディレクター 佐藤可士和の仕事 ヒットデザインはこうして生まれるプロフェッショナル 仕事の流儀 アートディレクター 佐藤可士和の仕事 ヒットデザインはこうして生まれる


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The National Fine Art Education Digital Collection

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イギリスにThe National Fine Art Education Digital Collectionという美術系大学が参加するウェブアーカイブがある。現在の参加機関は次の通り。

Counicil for National Academic Awards
University of Arts London
Slade school of Fine Art
Royal College of Art
Norwich School of Art and Design
University of Brighton
Birmingham Institute of Art and Design
University of Leeds
University of Ulster
Glasgow School of Art
Duncan of Jordanstone College of Art and Design

まだ試験運用中のようだが、人、場所(機関)、時間(年代)の3つからコレクションを検索でき、インターフェースも今のところ使いやすい。難点を上げるとすれば、コレクションの選出基準が「芸術教育への貢献」とだけ記されていていまいちはっきりしないという点と、コレクションが増えてきた際に機関や年代という検索基準だけではヒット数が膨大なものになってしまうということだろうか。しかし、美術系大学が合同で参加しているという点が本データベースを魅力あるものにしていると感じる。各大学のHPからアーカイブを検索していたのでは面倒なことこのうえない。日本でも各種アートアワードの受賞作品を集めたウェブアーカイブが構築されると研究者や作家、学生にとって便利なものとなるだろう。

The National Fine Art Education Digital Collection HP

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英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展

英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展
2008年4月25日〜7月13日
森美術館

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文句なしに刺激的。

 デミアン・ハーストの作品に引かれ、英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展を観に行った。ハーストの作品とは、まっ二つにされた牛がホルマリン漬けにされている例の「衝撃的な作品」<母と子、分断されて>である。私にとっては長らく実物を観たかった作品の一つで、ようやくの対面となった。実際に対峙してみると、図版で観ていた印象とはまるで異なり、衝撃的であるとかグロテスクであるという表現は相応しくなかった。むしろ静謐な雰囲気に包まれているといっていい。そう感じたのは牛の断面が極めて丁寧に処理されていたことも大きいだろう。「生物を切る」という行為は料理のため日常的に行われている。ただ、文脈から切り離しそれだけをクローズアップして提示すると普段は隠されていたものが立ち表れてくる、そう頭でのみ理解している時は「グロテスクだろう」と勝手に決めてしまっていた。今回もまた実物を観ることの大切さを改めて教えられた。

 ターナー賞の受賞作だけを集めたこの展覧会が面白くないわけがない。ジリアン・ウェアリングのほとんど動きのない60分の映像作品を展示してしまうのはさすがに無理があるのではと思ったが、来館者は映像と作品解説を見比べながら作品の面白みを確実に掴んでいたようであるし、マーティン・クリードのライトが点いたり消えたりするだけの作品のある部屋では、通り抜けていった家族連れが狙い通りの会話を残していった。「これが作品なんだって」「うそでしょ」と。私のもう一つの目当て、マーク・ウォリンジャーの着ぐるみの熊の映像も楽しめた。そう、どの作品も期待を裏切らない刺激に溢れている。

出展作品の面白さもさることながら、本展は展覧会としての完成度が非常に高い。パネルのタイポグラフィー・デザインや作品(特に映像作品)の配置、モニターに映し出されたスライドショーなど隙がない。とくに章ごとに壁に据え付けられたモニターが映し出すスライドショーはデザイン的にも恰好がよく、その年の候補作品を順に観ることができる仕掛けである。ただ、来館者の多くは情報が時間差で表れてくるスライドショーよりも一度に把握しきれる文章のほうが読みやすいとみえる。しばし観察していると、スライドショーには一瞬目を向けるもののモニターよりも普通のパネルを見ている時間のほうが長いようであった。

この他、オーディオ・ガイドも無料で借りることができる。普段は借りない私も試しに使わせてもらったが、その内容の良さに驚いた。個々の作品解説というよりも、作品に即してターナー賞の歴史を辿るという構成で、その年の授賞式のエピソードなどトリビア的な内容が充実感を高める。機会があればもう一度見ようと思う。

英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展HP

英国美術の現在史ターナー賞の歩み

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大学図書館の広告力


(注:時間によっては図書館が舞台ではないときもあるようです。)


大学図書館の広告力

 伊東豊雄の建築で注目度が高かった多摩美術大学図書館。現在、この図書館はユニクロがブログパーツとして広く配布している「ユニクロック」に使用されている。「ユニクロック」は女性ダンサーがユニクロの衣服を着てリズミカルに踊るスクリーンセーバーであり、ブログパーツでもある広告媒体だ。つまりユニクロックを使う人は舞台となっている多摩美術大学の図書館を必然的に目にすることになる。同図書館はユニクロの他、アップルジャパンの広告にも活用されたばかりである。ユニクロのアートディレクションを同美大出身の佐藤可士和が務めていることと関係があるのかどうかはわからない(ユニクロックの映像を手がけるのは、映像作家の児玉祐一)が、少なくとも広告に相応しい場所として選び出されたことは間違いない。映像をみる限り、身近ではあるがやはり特別な場所である図書館を使う面白さが感じられる。
 なるほどユニクロはこれまでも東京国立博物館の特別5室前の大階段を使ったことがあり、文化施設を使うことには先例があった。とはいえ、これまで大学図書館がCMに使われることなどあっただろうか。閲覧環境、資料へのアクセス性など基本的な機能を充実するのは当然として「デザイン」という付加価値が付いた図書館は、企業の広告に乗って大学のブランディングにも力を発揮する・・・。多摩美の図書館とユニクロックの組み合わせは大学図書館の新たな可能性を物語っているように感じられる。

追記:
ただし、多摩美術大学図書館の立地が東京近郊というのは大きい。広告を作る側にとって利用しやすい位置にあるというのは重要なことで、地方の大学が同様のことをしても広告力を発揮する機会は少ないものと予想される。

つくる図書館をつくる―伊東豊雄と多摩美術大学の実験Bookつくる図書館をつくる―伊東豊雄と多摩美術大学の実験

販売元:鹿島出版会
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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六本木ライブラリー

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六本木ヒルズに「英国美術の現代史:ターナー賞の歩み」展を観にいったところ、「アカデミーヒルズ六本木ライブラリー」なるポスターが目に留まった。「へえ、こんなところにも図書館があったのか」と感心したのだが、帰って調べてみるとただの図書館ではなかった。どちらかというと現代の高級サロンといった趣きで、年会費約11万円也。図書館というよりハイクラスのためのパーソナルオフィススペースというのが正しい。蔵書はなく置いてある本は本屋の書棚と一緒で「買えば」持ち出せるという仕組み。ディレクターの言葉を借りれば、ここは「新規イノベーションを起こすことを目的とし、他人と知識をシェアするための場」であって単に本が収集される場ではないとのこと。「情報に効果的にアクセスするシステム」としてのサロン(ライブラリー)という発想はある意味古風だが、公共図書館ではこれまであまり省みられる機会はなかったのも事実であろう。なかなか魅力的なこの考え、実現しやすいのは公共図書館よりもすでにサロン的まとまりの下にある大学図書館だろうし、効果が期待できるのも後者だろう。しかし本来は公共のミュージアムの図書室がこういう役目をもっと果たすべきなのだと思うのは私だけだろうか。

六本木ライブラリーHP

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