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2008年4月

ルーヴル美術館展 フランス宮廷の美

ルーヴル美術館展 フランス宮廷の美
2008年4月26日〜7月6日
神戸市立博物館

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神戸市立博物館でルーヴル美術館展が始まった。「ルーヴル」の名を冠して、人が来ない訳がない。覚悟の上で週末の午後に訪れたところ、案の定結構な人の入りであった。出品されているのは主に工芸の分野で絵画は少ない。

1階ホールには写真を撮るスペースが設けられていた。好評のようで、携帯電話で撮影していく人が後を絶たない。改めていうまでもないが、ミュージアムという「場」は多くの場合、旅行やデートの途中に利用される。であれば、人々が「その場を訪れた」という記憶を残す手助けをするため、何かしら準備をしておくことがミュージアムにとって大事なことである。まさに「情けは人のためならず」だ。「情け」という表現は、人々のためにこそ存在する今日のミュージアムにとって全く相応しくない言葉だが、「ミュージアムに行った」という記憶が人々にしっかりと残ることは、ミュージアムにいつか恩恵をもたらすはずだ。

展示の感想を述べる前に、ミュージアムの「使命」に関する話題をもう一つ。同じく1階ホールに掲げられた「メッセージ」のパネルには次のように書かれていた。ルーヴル美術館館長アンリ・ロワレットの言葉である。

「・・・館の広報用の標語を考えていたとき私たちが重視していたのは、「1793年以来すべての人に開かれている」ということです。この「開かれた場所」という考え方は非常に本質的で、まさに美術館の使命の1つ「できるだけ多くの人に作品を知ってもらうこと」を反映するものなのです。国際化が進む現在、美術館はもはや、ただ作品を見に来る場所にとどまる訳にいきません。美術館はその使命を自らに問いかけ、いかにして出来得ることを広げていくかを考えなければなりません。つまり展覧会によって作品を移動し、パリに来る機会のない人々にも作品を見てもらえることを考えていかねばならないのです。」

ルーヴル美術館はじめ海外の巨大美術館が、近年相次いで分館建設に着手しており、その設置場所は中東にまで及んでいる。ロワレットの言葉もこうした「美術館の世界戦略」という現状をふまえて読まなければならないが、「いかに出来得ることを広げていくか」という姿勢は学ばなければなるまい。

肝心の展示は、出品点数も充実しているし、当時の宮廷の「趣味」がよく伝わってくる内容であった。銀食器と嗅ぎ煙草入れなどの小物が充実し、見所の一つとなっている。なかでも背面が見えるよう展示された≪「枝付き燭台の」あるいは「鑞受けのある」ポプリ入れ一対≫や≪ダイヤモンドを象嵌した飾り武器模様の嗅ぎ煙草入れ≫などがその豪華さゆえか、来館者の足を止めさせていた。

ただキャプション(作品解説パネル)の配置は気になる。展示ケースの上部に設置されたキャプションは、背の低い人や視力の弱い人にとっては見にくいものである。実際、高齢の方は見にくそうにしていた。私も膝を曲げて視線を下げてみたところ、位置によってはライトの反射のせいで字が見えず苦労した。キャプションを上部に設置するというのは混雑を予想しての配置であろうが、子供や高齢者への配慮という点からみれば、問題があるように思う。

その一方で「こどものための鑑賞ガイド」が作成されていた点は評価できる。市立の博物館でこの種のガイドを特別展用にきちんと作成している館はまだ少ないはずだ。実際、なかなかお目にかかる機会がない。内容が充実している分載せられている情報がやや多かったのと、情報の配置にもう少し「まとまり」を持たせたほうが見やすいデザインになった、という点は改善点として挙げられよう。とはいえ、地道な活動がきちんと展開されているということを素直に喜びたい。その館が地域の中でどういう役割を果たしていこうとしているのか、こうした鑑賞ツールの存在からも感じることができるというものだ。

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写真撮影スペース。今は携帯電話での撮影が主流か。

ルーブル美術館展HP(朝日新聞社)
神戸市立博物館HP
「ジュニアミュージアム講座」:プログラムも充実している。

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書籍紹介『美術と展示の現場』

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書籍紹介 
秋元雄史他著『美術と展示の現場』新宿書房,2008年.

展示の場を巡る多角的な考察

美術館に席を置く四人の識者が、それぞれの立場から展示を巡る「今」を語る。本書は、神戸芸術工科大学の連続講義の記録であるが、内容をみれば学生への影響もかなりのものと想像できる。金沢21世紀美術館の館長職にある秋元が、美術を見せる「場」が美術館からいかにして地域へと拡がっていったのか、を前任地の直島の事例を基に夢のある話題を提供したかと思えば、東京都写真美術館の笠原からは仕事をする環境、すなわち就職先としてみた場合の美術館の厳しい現実が語られる。その一方で、兵庫県立美術館の中原と東京国立近代美術館の増田は、より根源的な問題に踏み込んでいく。中原が現代美術の多様な作例を引きつつ、美術にとって展示とは何かを今一度考えさせるならば、増田は自身の専門である写真の美術館における展示史を概略しつつ、美術館の在り方に対して示唆に富む言及を残す。講義の際に示されたであろう図版をもう少し所収してほしいという願いはあるものの、読んで素直にわくわくできる、そんな内容の一冊だった。美術館への就職希望者のみならず、作家志望の学生にとっても一読の価値がある。

Book美術と展示の現場 (神戸芸術工科大学レクチャーシリーズ 2-1)

著者:秋元 雄史
販売元:新宿書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する


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オンライン展示考

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オンライン展示(online exhibition)考

美術館ウェブサイトの新たな可能性

 近年、「インターネット展覧会」という言葉を目にするようになった。ネットが浸透しつつある時期に盛んにもてはやされたアンドレ・マルローの「空想の美術館」を想起させるこの言葉自体に私自身抵抗がないわけではない。が、まずは次に挙げるオンライン展示をみてもらいたい。一つはニューヨーク近代美術館(MOMA)のDesign and Elastic Mind〔デザインとしなやかな思考〕というオンライン展示、もう一つは広島市現代美術館のインターネット展覧会である。

Design and Elastic Mind(オンライン展示)
広島市現代美術館インターネット展覧会(internet exhibition)

これらのサイト、特にMOMAのそれは美術館がこれまで行ってきたネット利用と明らかに一線を画している。非常に手の込んだフラッシュによりネットでしかできないことを実現してみせたと評価できる。インターフェース(画面)は世界的な評価を受けるウェブ・デザイナー中村勇吾の作品。

これまでも作家が自分の作品をネットで公開したり、実在する美術館が著作権が切れた作品の画像を公開したり、ということはあった。それらはしばしば「ギャラリー」という名称を与えられてきたが、どちらかといえばアーカイブであった。つまり、そこではある意図に沿って展示される展覧会ではなく、せいぜい常時公開の収蔵庫にすぎなかったのである。

それが今、実在の美術館が実際にネット上での展覧会に着手し始めている。もちろんMOMAのDesign and Elastic Mindはネット上だけで行われているわけではないがonline exhibitionと明記され、ウェブサイトも作り込まれている。普及媒体としてネットを積極的に利用しているだけではないか、という言葉も聞こえてきそうだが、決められた章立てのみならず、いくつかのテーマに沿って次々と作品をブラウジングしていけるところなどは、まさにオンライン展示の真骨頂である。ウェブ・デザインの成否が問われる部分であり、よく出来たインターフェースを準備することが今後更に求められていくことだろう。

そして、どうやら映像作品がオンライン展示という形態に適しているとみえる。実際の会場で映像作品を観るとなると、鑑賞に時間がかかるため作品数も制限される。まして混雑して立ち見などになったら最悪である。加えて、そもそもデータは複製可能を前提としている以上、乱暴にいえば存在するデータ全てがオリジナルな作品として成立しうる。データ化された映像作品は、どこでみてもオリジナルな映像作品として私たちの前に表れるといえよう。広島市現代美術館のオンライン展示はこうした映像作品で構成されており、なかなか面白い作品を観ることができる。

これまでは実際の美術館に足を運ぶ前に、今どんな展覧会が行われているか、や交通案内をチェックするのがウェブサイト利用の通例だったが、今や美術館のウェブサイトは、単なる情報掲示の場を超えて、それ以上の価値を持つに至ったとみるべきだろう。距離や時間に関係なく入場可能なもう一つの展示「会場」が、ネット上に確かに生まれつつある。今後もオンライン展示の動向には注目していきたい。


MOMAではDesign and Elastic Mindの他にもオンライン展示を観ることができる。
ニューヨーク近代美術館HP

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ウルビーノのヴィーナス

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ウルビーノのヴィーナス
古代からルネサンス、美の女神の系譜
2008年3月4日〜5月18日
国立西洋美術館

教科書的な展示内容

 イタリアから名画が来る。そう聞くと一点豪華な展覧会かと思ってしまうが、本展に限っていえばそうではない。美の女神ヴィーナスの古代における図像の在り方及びルネサンス以降の復活と発展の様子を辿るという教科書的な展示内容となっていた。つまり、≪ウルビーノのヴィーナス≫一点に焦点を合わせているのではなく、それも含めてヴィーナスの図像変遷を見せようとしている点が印象に残った。

会場では絵画のみならず、彫像やアクセサリー、調度品などに見られるヴィーナスの図像表現もみることができる。多様な展示品によって空間は、どこかヨーロッパの美術館のような雰囲気もあった。

 会場内に掲示されていたヴィーナスの図像変遷を示すパネルは、情報がよく整理されていて見やすかった。それによると官能性が際立つ≪ウルビーノのヴィーナス≫とは別に、ミケランジェロの下絵を参照した「男性的(哲学的ということらしい)」なヴィーナスの描き方があることがわかる。ポントルモの≪ヴィーナスとキューピッド≫だ。その作品も≪ウルビーノのヴィーナス≫の隣に展示されているのが本展の素晴らしいところ。きちんと構成された展示の中で観ればこそ、対比的に2つの作品を捉えられる。これらは収蔵先が違うのであるが、仮にイタリアで2つの作品が並べて展示されていたとしても、特に説明がなければ、影響関係などどこ吹く風、意識散漫通り過ぎてしまいそうだ。日本で、特別展で、観る意味もここに見出せる。

残念なのはジョルジョーネの描いたヴィーナスが展示されていなかったことである。ジョルジョーネの作品もパネルでは重要な位置付けにあったが、さすがに3点揃えるのは難しかったのだろう。構図を見る限り、企画した学芸員も出展させたかった作品に思えた。

展示室には図録に混じって、作品解説の拡大文字版も置かれている。こうした活動は地味なものだが、教育普及的な観点からみれば軽視できない。教育普及などと生真面目な表現をしなくとも、こうした「ちょっとした気遣い」が必要な人には嬉しいもの。コストも安く済みそうなので、他館でも導入が進むことを期待したい。

西洋美術館ではジュニア・パスポートという名称で小中学生向けの特別展用教育普及ツールを作成している。今回は、誕生・結婚・恋・キューピッド・もっとも美しい女神、のテーマ毎に簡単な解説が付く仕上がりとなっていた。このジュニア・パスポートを持った子供を見かけた人たちが「どこかに置いてないのかな」「便利そうだよね」と会話しているのが聞こえてきた。大人たちにも需要が多そうだが、今のところ配布はされていない。

それにしても上野の山は桜の季節。大変な混み具合を覚悟していたが、外の喧騒に比べれば、館内は落ち着いたものだった。

ウルビーノのヴィーナス 展覧会HP

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