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エミリー・ウングワレー展

エミリー・ウングワレー展
2008年2月26日〜4月13日
国立国際美術館(大阪)

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 エミリー・ウングワレー展を観た。いわゆる「プリミティブ」な表現が売りの作家であろうと別段期待していなかったのだが、展覧会の構成の妙もあり楽しめた。

エミリー・ウングワレーは、アボリジニーの儀礼のため身体に化粧を施す役目を果たしてきたとのこと。確かに彼女の初期の作品にはその影響が感じられる。同じ形態の繰り返しが主であり、そこで用いられる色や形にそれぞれアボリジニーの「伝統」に基づく象徴的な意味があるのだろうと想像できる。ただし、鑑賞者がこの初期作品を目にするのは展覧会の終盤になってから。初期といってもそもそも彼女がキャンバスに絵を描き始めたのは晩年のことだそうで、100点近い出展作品のほとんどが没前8年という時間に収まってしまうのであるが・・・。

この展覧会、通常であれば初期作品から晩年へと向かって時系列的に見せるところを最晩年から初期作品へと戻る構成になっている。亡くなる間際の円熟した抽象表現から徐々にその根底にある文化背景に近づいていく、というイメージだ。私にはこの構成が「単に伝統を引き継いだだけの、いわゆるプリミティブ・アーティストではないですよ」という企画側のメッセージのように感じられた。というのも、展示室に入ってすぐ目に飛び込んできたのが、大胆に刷毛で描かれたピンクと白と青の色彩が冴える抽象絵画だったからだ。誤解を恐れずいえば、「プリミティブ」というにはあまりに洗練されている作品であった。

この驚きを増幅する仕掛けの一つになっているのが、B2Fに設けられたユートピア・ルームであろう。国立国際美術館の展示室は地下にある。この展覧会ではB3Fがメイン会場だが、B2Fに前室的な展示スペースが設けられており、ウングワレーが生きた土地への背景知識が提示されている。ここでは儀礼に用いる「伝統」的な像などを見ることができた。最晩年から初期作品へ向かう構成、前室的なユートピア・ルーム、これら2つの仕掛けによって、彼女の最晩年の境地がいかに自身の文化と様式や色彩の面において抜け出しているかが伝わった。

作品では色彩の魅力が際だつ。白と黒のはっきりとした対比で描かれた力ある線もよかったが、赤やピンクなどを用いた作品の色の配置に強く惹かれた。

だが、なぜ彼女は評価されるようになったのだろう。彼女の表現の媒体がキャンバスでなかったとしたら、あるいは近代の西洋美術が「発展」の末辿り着いた抽象表現のようでなかったとしたら、作者がいわゆる「プリミティブ」な出自を有する、アカデミックな教育を受けていない老齢の女性でなかったとしたら、同様の評価を受けただろうか。西洋から「ユートピア」と名付けられた彼女の生地のように、そこにある種の歪んだ眼差しはないのだろうか。そう書いている自分自身にも、作品に対する同様の眼差しが働いているのではないか、と不安になる。作品は確かに満足のいくものだったが、どこか素直に満足できない気持ちを抱えつつ、展覧会を振り返っている。

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