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2008年3月

書籍紹介 『日経 五つ星の美術館』

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書籍紹介
『日経 五つ星の美術館』日本経済新聞出版社,2007年.

格付けされた美術館

 ミシュランガイドにも東京版が登場し、世間的にも何かと「格」という言葉が流行している昨今。だが本書において「美術館を格付ける」という行為は、そうした流行に安易に乗ったものではない。美術館が置かれている現実に鋭く反応した結果出てきた価値ある調査成果なのだ。

 独立行政法人化された国立の博物館・美術館は、企画と採算の間の葛藤が高まり、地方の公立館は予算削減と指定管理者制度に揺れている。そうした現状をふまえ「費用対効果、入場者数に依存するだけが美術館の評価ではない、新たな評価基準が必要」と関係者の誰もが思っている中、一つの指標を提示したのが日本経済新聞社だった。さすがは文化欄にも定評がある同社である。ここ10年の間にミュージアムをどう評価していくかはマネジメント意識の伸長とともに盛り上がりつつあったが、ここまで大々的に評価を下し、書籍という一般の目に届く形で提示した先例はない。

では実際には、どんな評価方法を採ったのか。どうやら美術館の仕事を3つにわけて考えたようだ。展覧会の企画力や研究能力を計る1)学芸力、入場者数や助成金獲得具合などを計る2)運営力、学校等と連携したプログラムなどを計る3)地域貢献力、を評価軸として策定。これに専門家の意見を加味し、それぞれの館の偏差値として算出し、星5つから星1つまで5段階の総合評価を与えている。

調査主体も認めているように、評価の時期と基準により、星の数は容易に変化してしまう。そのため本調査の結果与えられた星の多さで館の能力を即断するわけにはいかない。ただし、重要な点は、調査主体の努力によって全ての国公立美術館を対象に評価が「初めて行われた」ということである。今後もミュージアム評価の問題は議論の尽きない領域だが、本書は「変化のための着実なる一歩目」と評価できよう。

日経五つ星の美術館日経五つ星の美術館

販売元:日本経済新聞出版社
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エミリー・ウングワレー展

エミリー・ウングワレー展
2008年2月26日〜4月13日
国立国際美術館(大阪)

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 エミリー・ウングワレー展を観た。いわゆる「プリミティブ」な表現が売りの作家であろうと別段期待していなかったのだが、展覧会の構成の妙もあり楽しめた。

エミリー・ウングワレーは、アボリジニーの儀礼のため身体に化粧を施す役目を果たしてきたとのこと。確かに彼女の初期の作品にはその影響が感じられる。同じ形態の繰り返しが主であり、そこで用いられる色や形にそれぞれアボリジニーの「伝統」に基づく象徴的な意味があるのだろうと想像できる。ただし、鑑賞者がこの初期作品を目にするのは展覧会の終盤になってから。初期といってもそもそも彼女がキャンバスに絵を描き始めたのは晩年のことだそうで、100点近い出展作品のほとんどが没前8年という時間に収まってしまうのであるが・・・。

この展覧会、通常であれば初期作品から晩年へと向かって時系列的に見せるところを最晩年から初期作品へと戻る構成になっている。亡くなる間際の円熟した抽象表現から徐々にその根底にある文化背景に近づいていく、というイメージだ。私にはこの構成が「単に伝統を引き継いだだけの、いわゆるプリミティブ・アーティストではないですよ」という企画側のメッセージのように感じられた。というのも、展示室に入ってすぐ目に飛び込んできたのが、大胆に刷毛で描かれたピンクと白と青の色彩が冴える抽象絵画だったからだ。誤解を恐れずいえば、「プリミティブ」というにはあまりに洗練されている作品であった。

この驚きを増幅する仕掛けの一つになっているのが、B2Fに設けられたユートピア・ルームであろう。国立国際美術館の展示室は地下にある。この展覧会ではB3Fがメイン会場だが、B2Fに前室的な展示スペースが設けられており、ウングワレーが生きた土地への背景知識が提示されている。ここでは儀礼に用いる「伝統」的な像などを見ることができた。最晩年から初期作品へ向かう構成、前室的なユートピア・ルーム、これら2つの仕掛けによって、彼女の最晩年の境地がいかに自身の文化と様式や色彩の面において抜け出しているかが伝わった。

作品では色彩の魅力が際だつ。白と黒のはっきりとした対比で描かれた力ある線もよかったが、赤やピンクなどを用いた作品の色の配置に強く惹かれた。

だが、なぜ彼女は評価されるようになったのだろう。彼女の表現の媒体がキャンバスでなかったとしたら、あるいは近代の西洋美術が「発展」の末辿り着いた抽象表現のようでなかったとしたら、作者がいわゆる「プリミティブ」な出自を有する、アカデミックな教育を受けていない老齢の女性でなかったとしたら、同様の評価を受けただろうか。西洋から「ユートピア」と名付けられた彼女の生地のように、そこにある種の歪んだ眼差しはないのだろうか。そう書いている自分自身にも、作品に対する同様の眼差しが働いているのではないか、と不安になる。作品は確かに満足のいくものだったが、どこか素直に満足できない気持ちを抱えつつ、展覧会を振り返っている。

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エイヤ=リーサ・アハティラ展

エイヤ=リーサ・アハティラ展
2008年2月3日〜3月23日
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

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ビエンナーレでの評価は高いようだが・・・

 2010年に行われるという「瀬戸内国際芸術祭」について北川フラム氏の講演があると聞き、高松に向かった。ついでといってはなんだが、気になる企画をやっていた猪熊弦一郎現代美術館(丸亀市)に足をのばす。エイヤ=リーサ・アハティラ展である。勉強不足で作品を観たことはないが、彼女は世界的な評価を受けるフィンランドの作家。

作品は写真を含めて5点程度、映像作品は2作品だけというこぢんまりとした展覧会であった。メインとなるのは2005年のベネチア・ビエンナーレに出展されたという≪祈りのとき≫。愛犬の死という個人的にして普遍的な事柄が、マルチヴィジョンによる交錯した場面展開で語られる映像である。現実と虚構の往来が彼女の作品の魅力だそうだ。なるほど4面のマルチスクリーン上では、アハティラによって仕立てられた演技者によるナレーションと、ストーリーを補完する(と思われる)「景色」とがシンプルに交差していく。ビエンナーレで「絶賛された」とのことだが、どうも私にはピンとこない。感情を移入すべき拠り所を見出せなかったことが大きな理由だと思う。

どちらかといえば、もう一つの作品≪漁師たち≫のほうが面白かった。荒れた海に向かってひたすら櫓をこいでは船が波にのまれる、その繰り返しが映されているだけの映像作品。まるで出来の悪いホーム・ビデオのようなドキュメンタリー、その潔さにまず感服する。マルチヴィジョンを特徴とするアハティラの作風とは一線を画すようだが、映像としては面白い。不謹慎な笑いにすら導かれてしまう。「現代美術はわからない」を地で行く、全く意味不明な作品であった。いったい何を伝えたいのだろう、この種の作品ほどそれを考え始めると難しい。なにしろ映し出されているのは波に挑む漁師たちの無力な行為だけである。魚が捕れたのかどうかすらわからない。大波が来て、船が転覆し、漁師たちが波間に漂う。彼らが本当に漁師かどうかも怪しくなるほど、船は簡単に転覆してしまうのだ。タイトル(エチュードと付け加えられている)から察するに「習作」という位置づけのようだから、今後別の形でこの漁師たちと対面することもあるかもしれない。そのときに真意を知ることもできよう。意図を理解することは困難な作品であったが、アハティラの視線の中には、好奇や嘲笑といったものはなかったことを最後に付け加えておきたい。

展覧会としては期待したほどの作品量がなかったことに加え、≪祈りのとき≫は英語のナレーションのみで字幕がなかった点が気にかかった。英語がわからなくても映像からわかる範囲で類推する、それも映像表現の持ち味なのかもしれないが、来館者の大多数にとって親切であるとはいえないだろう。別刷りで解説を掲げるなど工夫が欲しいところである。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館HP

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菅野美術館

菅野美術館
宮城県塩釜市

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壁の傾斜が生み出す、心地よさ

 仙台にほど近い港町塩釜の駅を降り、案内板を頼りに住宅街を10分ほど歩くと、丘に面してひっそりとたたずむ菅野美術館に辿りつく。鋼板を使った外壁が赤茶けた姿態をさらし、宮城を代表する彫刻家佐藤忠良の言に従い「藝術は人生の必要無駄」と彫り込まれた表札が訪れる者を迎える。錆を帯びた重い扉を開けると、中は一転、白亜の空間に誘われる。白い内部には、10点弱の彫刻作品が気持ちのよい間隔で配置され、それぞれの魅力と穏やかに向き合うことができる。

収蔵品はロダンやムーア、ブールデルら有名作家の小さめの作品が揃う。数は少ないが、個人コレクション、さらに塩釜という地勢を考えれば充実していると言わざるをえない。

だが、菅野美術館は収蔵品もさることながら建物自体が見所だ。阿部仁史の手による内部空間は圧巻。外壁同様にデザインされた白い鋼板が大胆に傾斜して配されることによって、絶妙の間仕切り感が演出されている。決して暗くはないが「洞窟」あるいは「教会」のような雰囲気をもつといってもよいだろう。訪れる前、写真で内部の様子を知った時は、奇をてらった居心地の悪そうな空間に見えたものだが、実際に内部に足を踏み入れ、空間を感じると実に居心地がよい。どこにも扉がないのだが、場所を選べば傾斜した壁がほどよく視線を遮ってくれる。人によって好みはあろうが、住居として使用しても案外気持ちよく過ごせるはずだ。

仙台を訪れたら少し足をのばして、落ち着いた空間で彫刻作品と向き合ってみてはどうだろうか。素敵な時間となるに違いない。

外壁写真
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内部も同様の鋼板のデザインだが、白塗りである。

美術館の表札
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佐藤忠良の言葉が刻まれている。

菅野美術館HP

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