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アート・記憶・場所

アート・記憶・場所
2007年10月6日〜11月25日
岩手県立美術館

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概念と表現、求められる高次元の融合

 「アート・記憶・場所」というコンセプチュアルな展覧会が岩手県立美術館で行われているが、一つの作品にとてつもない衝撃を受けた。始めに言ってしまえば、失礼ながらその作品以外、時間をかけて観るべきものはほとんどなかった。コンセプトを全面に押し出したタイプの展覧会は好むところであるが、どうも片手落ちという印象である。ただし、その一点の作品を観るために足を運ぶ価値はある。

 たった一つの魅力ある作品を制作したのは、越後妻有アートトリエンナーレ2006の出展作家でもある、栗田宏一。<SOIL LIBRARY PROJECT/岩手>と名付けられた作品は、岩手県内で採集した様々な場所の土を乾燥させ、正方形の和紙の上に整然と盛りつけることで、私たちが普段何気なく見ている土にも様々な色、個性があることを静かに伝えている。展示において目に見える作家の表現といえば、数ある紙の中から正方形に漉いた和紙を選び、土をその上に正方形に載せること、そしてそれを整然と並べるというだけである。最低限の表現であるが実に美しい。土が持つ本来の色が観る者の心を深く捉える。栗田の作品は、いわば素材の味を大切にする料亭の味。コンセプトを最も明瞭に伝える手段として丹念に表現が切り詰められている。しばらく座って土の個性をじっくり眺めるのがよい。

 他の出展作品について多く語るべきことはないが、共通して気になった点が一つある。コンセプトに対して表現が付いて来ない。どんなにコンセプトを大上段に振りかざしても、表現された結果である作品に鑑賞者を惹きつける力がなければ意味はない。鑑賞者は解説パネルの文章をただ読んでいるようなものだ。それでは作品としての説得力に欠ける。いかに理論で武装しようとも鑑賞者が展示室で向き合うのは作品である。少なくとも私が美術館で観たいのは作品であって、作品の制作背景となった知識ではない。概念と表現の高い次元での融合が求められる。

 それはともかく、「アート・記憶・場所」では企画意図や作家紹介、出品リストを一つにデザインしたパンフレットを配布してくれる。カタログを買うのはちょっとというお客様にとっても嬉しいところだろう。ピカソ展の際には見あたらなかったので独自企画の時に限られるのだろうが、他館では往々にして誠に味気ない出品リストが配られるか、ただ展示室に置いてあるものだ。この他、岩手県立美術館では冊子『aprire(アプリーレ)』の刊行も続いている。後々参照できる配布物にも力を入れる同館の姿勢に私も学びたいと思う。

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